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3.「東都高名會席盡 尾藤 狐忠信」 歌川広重・歌川三代豊国 嘉永5年(1852)
今でこそ麻布広尾と言えば都会のお洒落な町ですが、江戸時代は広尾原と呼ばれる原野が広がる寂し気な所でした。古川が流れ、その四ノ橋のたもとにあった二階建ての大きな店構えが「狐鰻(きつねうなぎ)」という鰻屋です。もとは尾張屋藤兵衛という人が開いた掛け茶屋で、お汁粉が絶品。あまりのうまさに狐が化けて食べに来たといううわさが広まり、「狐しるこ」と呼ばれ、のちに鰻屋になり「狐鰻」と呼ばれるようになります。古川の天然鰻を使い大評判、明治になって京橋に移転したそうです。
「東都高名會席盡」は、江戸の有名な料理屋50店を歌舞伎役者にかけて紹介するシリーズ。上部のコマ絵の料理屋の情景を広重が、その店の名前にかけた役柄の歌舞伎役者を三代豊国が描く両巨匠合作の浮世絵です。と同時に、江戸の粋でおいしい料理屋を紹介する、いわば江戸のミシュランガイドのような役割も果たしていました。
狐鰻にかけて、この図の役者は、歌舞伎「義経千本桜」に登場する源義経の家来、佐藤忠信に化けた狐です。
このシリーズをはじめ、数々の食の浮世絵を「江戸グルメ紀行 おいしい浮世絵展」で展示しています。