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むかし、下佐久間村に相撲好きの権兵衛という人がいました。ある日、岩井袋の親歳の家の手伝いに行き、お酒をごちそうになって夜道を帰ってくると、山道のやぶの中から「権兵衛、相撲とるべえ」と声がします。さてはいたずらタヌキだなと思い、声のする方へかまえると、着ていたしるしばんてんのえりをつかまれ、投げ飛ばされました。おみやげにもらった魚もなくなっています。くやしい権兵衛さんは、次の日の夜、同じ場所に来て、勝負をいどみますが、またえりをつかまれ投げ飛ばされてしまいます。「権兵衛は弱い」と草むらからはやされて、権兵衛さんはすっかり考えこんでしまいました。なぜ、真っ暗なのにおれの背中がわかるのか。おれのしるしばんてんの背中の白い丸印めがけて来るのだろう。次の夜、権兵衛さんは、しるしばんてんの背を前にして着なおし、声と同時にかまえると大きなタヌキが胸ぐらに飛び込んできました。待ってましたと、力まかせに投げ飛ばすと、タヌキは「権兵衛、かんべん、かんべん」と言いながら、逃げていきました。