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「大和武者絵」 菱川師宣 版本 大本一冊 延宝8年(1680)
「大和武者絵」は、古今の武将の逸話を紹介した絵本です。延宝期に入ると師宣は版本の挿絵の仕事に傾倒してゆきます。挿絵を見開きページに大きく取り入れ、文章は上部枠内に小さく収めるという頭書形式の絵本は、見やすさから庶民に受け入れられ人気を博していきます。菱川吉兵衛師宣とは、そもそもどんな絵師だ、と世間が取り沙汰されるようになった頃、延宝8年に刊行されたのがこの「大和武者絵(づくし)」です。この時、同時に刊行されたと思われるのが、「大和絵づくし」「大和侍農絵づくし」で、序文の形態が同一で、3冊とも「津国それすいたの住 闇計」という人物の序文が記され、そこに師宣の略歴のような紹介文があります。おそらく版元鱗形屋三左衛門の師宣売り出しの3冊セット販売だった可能性が指摘されています。そして、大和絵を重視する師宣の姿勢、師宣の絵本における「~づくし」という形が出来上がっていきました。
「爰に房州の海邊菱川氏といふ絵師 船のたよりをもとめて むさしの御城下にちっきょして 自然と絵をすきて 青柿のへたより心をよせ 和国絵の風俗 三家の手跡を筆の海にうつして これにもとづいて自工夫して 後この道一流をじゅくして うき世絵師の名をとれり」(「大和武者絵」序文)
師宣の人物を紹介するに、端的でわかりやすい名文です。